3:あたまの良い子どもが育つ家 スペースオブファイブ

スペースオブファイブ 四十万靖(しじま やすし)氏

四十万氏(と渡邉朗子さん)との共著による、
「頭のよい子が育つ家」という2006年に出版された本は、
この住宅業界だけでなく、一般家庭にも大きなインパクトを
与えたと思います。

頭の良い子どもは、子ども部屋では勉強しない

というのはなんとも魅力的なフレーズではないでしょうか。
その根底には、家族のコミュニケーションがちゃんと機能している
家庭の子どもはかしこく育つ、ということがあります。

私が大学の建築学科で勉強していた20年以上も前から、
住宅の個室化による、子どもの犯罪や、ひきこもりなどが
社会問題化していましたので、家庭内のコミュニケーションが
活性化するプランニングといったことが、よく言われていました。

ですが、その頃はコミュニケーションとはいったいどのようなものかが、
漠然としていて、単純に玄関からはいったらすぐリビングといった、
あまり具体的なイメージのないプランを作っていたように思います。

それに対して四十万氏は、コミュニケーションとは、
第一にダイニングで、母親と子どもが勉強したり、会話したりすることだ、
といった具体的なイメージを与えました。

また、父親、母親の存在感が家の中でもわかることや、
家のすみずみをどこでも居場所とできるようにする、
といった非常に具体的なコミュニケーションのかたちをその著書で示しました。

これは、住宅設計をしている者にとっては、とても勇気を与えられることです。
自分が設計した住宅で、かしこく育ち、東大に入ったとなると、
その子どもの人生に大きくプラスの影響を与えることができた、といえます。
それほどの力が住宅の設計にはあるのだと思うと、
非常に誇らしく感じられます。
(実際には、住宅とそれを生かす習慣が非常に重要ではありますが)

という想いで、この四十万氏の本を読んでいましたが、
彼が主催している、スペースオブファイブが展開している、
「頭の良い子どもが育つ家」というのは、
残念ながら、それほどの魅力は感じません。

前提としてる調査や、その調査による洞察は
とてもすばらしいものがあるのですが、
それをもとに実際の住宅として実現しようとすると、
それほどのインパクトは感じられません。

その原因は、多くの人を対象にしているために、
プランとして特徴をもたせることができていないこと。
普通の建売住宅と、それほど大きな違いは認められません。

そのためかプロダクト(製品)に偏った部分が多いことも、
やや魅力に欠ける原因ではないかと思います。
顔色がよく見えるルーブルミラーや、
ガラスの黒板、自動で写真を撮影しスライドショーにしてくれる、
といったパーツに頼ることに、違和感を感じます。

父親のスペースとしての、ほりごたつのある和室といったものも、
非常にステレオタイプなスペースになってしまっています。

さらに、大手のガス会社が提携しているためか、
ガスの火による調理がよい影響を与えるというのも、
やや残念な展開になっています。

繰り返しますが、四十万氏の著書は、非常に優れた内容です。
それをどのように具体的な空間として実現するかは、
与えられるものではなく、そのエッセンスを生かして、
それぞれの家族と建築家とで考える時期にきていると思います。

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